東京都の「強度行動障害支援者養成研修」に参加しました

例年にないような暑さもようやく過ぎ去り、秋の訪れを感じるようになりました。

「学びの秋」ともいわれる季節。

そんな季節にふさわしく、東京都の「強度行動障害支援者養成研修」を受講する機会をいただき、先日参加してきました。

今回のブログでは、自分自身の復習もかねて、研修で学んだ内容をご紹介したいと思います。

「強度行動障害」とは

強度行動障害は、障害や疾病の名前ではなく、状態を表すことばです。

自傷(自分を傷つける)、他傷(他者を傷つける)、こだわり、もの壊し、睡眠の乱れ、異食、多動など本人や周囲の人のくらしに影響を及ぼす行動が、著しく高い頻度で起こるため、 特別に配慮された支援が必要になっている状態のことを、強度行動障害といいます。

強度行動障害は、重い知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)の人に生じやすいといわれています。

……と、教科書的な説明を書いてみました。

ではなぜ、重い知的障害やASDの人で、強度行動障害といわれるような状態が生じやすいのでしょうか。

知的障害や自閉スペクトラム症(ASD)と、強度行動障害

ここからは、研修で学んだ内容をふまえて、私なりのことばで書いていこうと思います。

拙い文章ですが、おつきあいいただけるとうれしいです。

楽しいこと、嫌なことが、私とは違う

ASDの人と私の間では、物ごとの感じ取り方が違うことがよくあります。

例えば、あるASDの利用者様は、私が気にもとめない床のシミをジッと見つめて笑っていたり、また別の利用者様は、私が些細だと感じる換気扇の音を聞いて眉をひそめ、耳を塞いだりします。

この方にとって床のシミを眺めることは、私が漫画や映画に没頭することと同じくらい面白いのかもしれない。

この方にとって換気扇の音は、私が電車の走る音をガード下で聞くのと同じくらい不快なものなのかもしれない。

利用者様の表情やしぐさを見ていると、そんなふうに感じることがあります。

ことばで伝えるのが苦手

私は、ほかの人にお願いをするときや、自分の気持ちを伝えるときに、ことばを使います。

「ちょっと静かにしてほしいな。」

「何をするのかわからなくて、不安だよ。」

ことばでそう伝えれば、相手は何かしら対応をしてくれたり、アドバイスをくれたり、寄り添ってくれたりします。

しかし、知的障害やASDの人の中には、知っていることばが少なかったり、誰にどのようにして伝えるのがいいかを判断するのが難しかったりして、ことばで伝えるのが苦手という人が少なくありません。

そして一般的に、障害の度合いが重くなるほど苦手は強くなり、伝えることのハードルも上がります。

「静かにしてほしい!!」「不安だよ、誰か助けて……。」

そう感じているのにうまく伝えられない、その不安や焦燥感は、中々想像できるものではないかもしれません。

苦しんだ末の行動

もし私が、ガード下のような騒音を四六時中聞かされているのに、「この音うるさい!」と伝える術がなかったらどうなるだろう。

きっと我慢しきれずに、何とか周りにわかってほしいと、身振り手振りで伝えようとします。

しかしその騒音は、周りにとっては換気扇の些細な音で、私の苦しみはなかなか伝わりません。

音を止める方法がわからず、周りにもわかってもらえない。

そうなると私は、イライラして壁を殴ってしまうかもしれません。

何とかわかってもらおうと、ほかの人の肩を強く揺さぶったり、物を投げたりするかもしれません。

重度の知的障害やASDの方が見せる、自傷や他傷、もの壊しといった激しい行動も、同じような理由で起きていると想像できます。

「伝えられない」と「わかってもらえない」のくり返しが、強度行動障害につながる

ことばが苦手だから、気持ちをうまく伝えられない。

多数派とは感じ方が違うから、なかなかわかってもらえない。

そんなもどかしさは、先ほど例にあげた音だけではなく、生活の様々な場面で生じえます。

その度に、なんとかわかってもらいたい一心で、激しい行動をする人もいます。

これを繰り返すと、激しい行動で気持ちを伝えようとするクセがつきます。

そのクセがついた状態が、強度行動障害と呼ばれる状態です(※わかりやすさのために、少々乱暴なまとめ方をしています)。

強度行動障害の状態になるのを防いだり、現在その状態にあるのを解消していくためには、周囲がその方の伝えようとしていることを的確にキャッチすることと、「伝わったよ、わかったよ」と、その方がわかる方法で示すことが必要です。

強度行動障害の支援・強度行動障害を防ぐための支援

換気扇の音であれば、スイッチを切ることで「うるさかったんだね、わかったよ」と伝えることができます。

しかし、すぐにこたえることができない要求をされることもあります。

例えば、おやつの時間が決まっている中で「はやく食べさせて!」と求められた時、すぐに渡すことはできません。

しかし時間まで頑なにおやつを渡さなければ、された側は当然、「いつ食べられるの?食べさせてよ!!」とイライラします。

「おやつを食べたいのはわかったよ。でも、時間まで待ってくれないかな?」と、その方にわかる方法でお願いする必要があります。

わかったよを伝える手段、「構造化」

おやつを楽しみに通所される利用者様に対して、私が「待ってくれないかな?」とお願いするなら……という例を作ってみました。

「おやつを食べたいのはわかったよ。だから、ちゃんと渡すって約束するよ。でも、今は渡せないから待っててね。」というお願いを、ことばではなく目で見てわかる形で伝えています。

……しかし、これを利用者様が受け入れてくれるかはわかりません。

もし受け入れてくれなかったときは、「そもそも3時の時計が理解できているのかな」ということをまず考えます。

理解の難しさが理由であれば、もっとわかりやすく伝わる方法を模索します。

例えば、残り時間が目に見えてわかりやすい、タイムタイマーという方法があります。

時計を理解したうえで受け入れてくれないのであれば、「じゃあ、好きなおもちゃを出すから、それで遊んで待っててくれないかな…?」など、受け入れてくれるを条件を模索して、改めてお願いしてみます。

このように、ASDの方の得意と苦手をふまえて、目で見える形で情報を整理して伝えようとする方法のことを、構造化と呼びます。

先の見通しを持ちにくかったり、聞くのは苦手だけど見て理解するのは得意という、ASDの方の多くに見られる特性に配慮して考えられた方法で、ASDの方を支援する施設や、特別支援学校などでよく使われています。

そして子笑でも、構造化という方法を積極的に取り入れています。

構造化の誤解

構造化について「目で見てわかりやすくして、指さしをすれば、ASDの方は従ってくれる」というような誤解をされている方がいます。

その誤解をもとに、「つめたい」とか「ロボットじゃないんだから」と、構造化という方法が批判されることもあります。

しかし実際には、目で見てわかりやすくして、指さしをしたところで、それが嫌であれば当然受け入れてもらえません。

そういうときは、支援者側が譲歩したり、かわりのなにかを提案して、受け入れてもらえないか駆け引きをします。

「してほしいから、ここは譲る」「してくれたから、おかえしする」

そんな人間同士の対等な駆け引きが、ASDの方が理解しやすい構造化という方法を使うことで、できるようになります。

構造化は、定型発達と呼ばれる人(発達障害がない人)とASDと呼ばれる人が、対等なコミュニケーションをしようとしている、あたたかい営みとも言えるでしょう。

そんなあたたかい営みを繰り返していくことが、強度行動障害の状態を改善したり、防いだりすることにつながるのではないでしょうか。

 

ご利用をご検討のお子さま、保護者様、関係機関様、子笑のプログラムや自立課題をぜひご見学にいらしてください。

放課後等デイサービス子笑   川畑

東京都あきる野市油平87-3 シャルマンルーフ2F

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